街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum
by polarbearmaniac
大阪・天王寺動物園のネボスケ (Nebosuke ?~2001)、その「出自」の謎に迫る ~ 彼は果たしてクーニャと双子だったのか?

Image : 天王寺動物園・なきごえ(1996-1)
先日、別府のラクテンチで長く飼育されたクーニャ (#1253 Kunya ?~ 2010) の血統について明らかにした投稿をしました(「謎のホッキョクグマ、クーニャ (#1253 Kunya ?~ 2010) の「正体」を探る ~ 浮かび上がったその真相」)。そして彼女の「正体」はアメリカ合衆国アリゾナ州・ツーソン (Tucson) のリードパーク(レイドパーク) 動物園 (Reid Park Zoo) 生まれのミンディ(#1160 NASN.725 Mindy)に間違いないだろうということを述べました。実はこのミンディと共に最初におびひろ動物園が関与した個体としてモーク (#1168 NASN.726 Mork) という雄(オス)の個体がいたのですが、このモークはその後の消息が不明となっています。個体のヒストリーが途切れてしまった場合のミッシング・リンクを繋ぎ合わせる作業には大変な労力が必要となるのですが、このモークのその後についてロストック動物園の資料、及び北米個体歴史記録の記載を追及していく過程において非常に興味深いことがわかってきましたので今回をそれを取り上げることとします。
Image : wikipedia
Image : tripadvisor
このミンディ(つまりクーニャ、1978年12月1日生まれ)とモーク(1978年11月30日生まれ)は共にリードパーク(レイドパーク) 動物園 (Reid Park Zoo) 生まれで両親は同じ、そして誕生日は一日違いです。つまりこの二頭は夜中の12時をはさんで誕生した双子兄妹であることを意味しています。この二頭はいずれも、1979年5月23日におびひろ動物園に入園(あるいは権利が移動)した記録がロストック動物園の資料に見出せます。ところが先日、アメリカのファンの方からメッセージをいただき、ネブラスカ州オマハのヘンリー・ドーリー動物園 (Henry Doorly Zoo)で1977年12月16日生まれの雄(オス)の個体も1979年5月18日におびひろ動物園に送られているはずだというメッセージをいただきました。調べてみましたところ確かに1977年12月16日生まれの雄(オス)の個体が北米個体歴史記録 (Historical Studbook) に見出せました (NASN. 702)。この個体の記録についてロストック動物園の資料には見当たらないと思っていましたが調査の結果、実はライトイヤ (#1159 Right Ear 1977~ ?) という雄(オス)の個体がそれに該当するのではないかと思われる記録が見つかりました。このライトイヤはロストック動物園の資料ではオマハのヘンリー・ドーリー動物園で1979年5月18日に動物商に権利が移転したという記録を最後に、その後の消息については記載がなく消息不明の状態です。このライトイヤの両親はオラフ (#399 Olaf) とオリガ (#400 Olga) であり、ミンディ(つまりクーニャ)とモークの祖父母にあたります。ここで問題となっている3個体を整理しておきます。
(A)ミンディ (#1160 NASN.725 Mindy)- (F)
1978年12月1日 リードパーク動物園 (Reid Park Zoo) 生まれ
1979年5月23日 おびひろ動物園へ (権利移転)
(B)モーク ((#1168 NASN.726 Mork) - (M)
1978年11月30日 リードパーク動物園 (Reid Park Zoo) 生まれ
1979年5月23日 おびひろ動物園へ (権利移転)
(C)ライトイヤ (#1159 NASN.702 Right Ear) - (M)
1977年12月16日 ヘンリー・ドーリー動物園(Henry Doorly Zoo) 生まれ
1979年5月18日 おびひろ動物園へ (権利移転)
このうち(A)の「正体」はクーニャです。問題は(A)と双子である(B)、そして(A)の叔父にあたる(C) の二頭が消息不明となったままであることです。数日間かけて(B)と(C)に該当する雄(オス)の個体が世界のどこかにいないかと調べてみました。そうしましたところ、その可能性がある個体が見つかりました。それが大阪・天王寺動物園で飼育されていた雄(オス)のネボスケ (#684 Nebosuke ? ~2001) です。
Image : Image : 天王寺動物園・なきごえ(1996-1)
このネボスケについては「大阪・天王寺動物園の苦闘の繁殖記録 ~ 残念な幼年期・若年期での早世個体の多さ」という投稿で触れています。彼はユキオ (#206 Yukio 1979~1995) 亡き後、彼のパートナーだったユキコ (#940 Yukiko 1979~2004) とペアを組み、1998年11月25日に誕生したのがユキスケ (#1629 Yukisuke 1998~1999) です。そういえば天王寺動物園では不思議と赤ちゃんは11月25日に生まれるようですね。このユキスケは一歳の誕生日を過ぎた1999年12月3日に亡くなっています。外部から投げ入れられたものを飲み込んで亡くなったというようなことを大阪のファンの方から聞いたことがありますが、私は彼の死の真相は知りません。ユキスケの父親だった今回問題にしているネボスケ(#684)ですが、ロストック動物園の資料では以下のように記録されています。わかりやすいように書き換えておきます。
誕生年月日不明、誕生地不明、両親不明
1978年4月20日 白浜AWS 入園
1983年7月13日 宝塚ファミリーランド 入園
1995年11月1日 天王寺動物園 入園
2001年2月20日 天王寺動物園で死亡
ネボスケは宝塚ファミリーランド時代にすでにその時のパートナーとの間で繁殖に挑み、雌(メス)のユキ (#1235 Yuki 1969? ~ 1989) が一回出産しています(成育せず)。そういったことでネボスケには繁殖能力が証明されていたわけで、天王寺動物園から白羽の矢が立ったのでしょう。これについては「兵庫県・宝塚ファミリーランドの苦闘の繫殖記録 ~ 悲劇のホッキョクグマ、オリーヴ」という投稿を御参照下さい。
さて.....問題なのは、上記のロストック動物園の資料の記載が(B)、及び(C)のヒストリーと矛盾する点があることです。仮にネボスケが(B)のモークだったとすれば彼は誕生前に白浜AWSに移動したことになってしまいます。また、仮にネボスケが(C)のライトイヤだったとすれば彼はおびひろ動物園到着前に白浜に到着していたことになってしまいます。ただし(ここからが問題です)、(B)及び(C)の可能性のある雄(オス)の個体で年代的に突如として世界のどこかの動物園に突如としてヒストリーに出現する雄(オス)の個体が資料的には存在していないというのも事実です。この(A)(B)(C) は資料上、非常に孤立、屹立した存在なのです。.....となれば、ロストック動物園の資料、あるいは北米個体歴史記録の記載のどこかに誤りがあるという結論にならざるを得ません。とすれば、以下の可能性を考慮せねばなりません。
(1) (C)のライトイヤのおびひろ動物園入園(あるいは権利移転)が実は1978年であった可能性。
(2) ネボスケの白浜AWS入園年が実は1979年であった可能性。
(3) ネボスケの生年がそもそも違っていた可能性。
これらのどれかでしょう。このどれかかでないとすれば、世界の動物園で(B)(C)に該当する雄(オス)の個体はいないことになってしまいます。おびひろ動物園から転売されるとすれば、現実的にまず日本の動物園以外には難しいと思います。
資料の記載の一か所に間違いがあるとすれば上の(1)(2)(3)のどれかです。二カ所以上の間違いがあるという確率は比較的低いでしょう。さて、こうやって資料を検討し、そして考察していきますとネボスケが(B)である可能性は30%、(C) である可能性は70%というのが私の心証です。つまり、ネボスケの誕生地はアメリカ・ネブラスカ州のヘンリー・ドーリー動物園、またはアリゾナ州のリードパーク(レイドパーク) 動物園のどちらかであり、そして別府の「ラクテンチ」でララ、ルルを生んだクーニャとは叔父(おじ)と姪(めい)の関係だった、あるいはクーニャとは双子であった....このどちらかであったと考えて、まず間違いはないでしょう。
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