街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum
by polarbearmaniac
秋田県・男鹿水族館GAOのフブキ (Fubuki) の来園に大きな期待を寄せる名古屋市の東山動植物園

秋田県の男鹿水族館GAOで2020年12月26日にユキ (Yuki) から誕生した雄(オス)のフブキ (Fubuki) が、今年2023年の3月に名古屋市の東山動植物園に移動することはすでに決定しています。この移動に関して、名古屋の中日新聞の電子版記事(1月18日付け)に、幾分興味深いことが述べられていますので、今回はそれについて考えてみたいと思います。
まず、こういったメディアの記者が厳密な用語使用を行って記事を書いているか、ということは常に問題となります。さらに、今回の記事の情報ソースは全て東山動物公園のようですが、その情報を提供した動物園側も、果たして厳密に語っているかということも問題となります。しかし今回は、「厳密に語っている」ということを前提としておきます。私の見たところ、この記事の以下の点を興味深く感じます。
①男鹿水族館GAOはフブキの両親の飼育を続け、さらなる繁殖を目指す。
②フブキの引っ越し先として獣舎のある東山動植物園が選ばれた。
③(フブキは)新たなペアにして繁殖を試みる「ブリーディングローン」で来園するが、今後、雌のホッキョクグマが来るかどうかは未定。
④東山動植物園では1951年から、国内外の動物園で生まれたホッキョクグマを迎えるなどして、これまでに計13頭を飼育。
まず①についてです。これは今年2023年の繁殖シーズンに豪太ちユキとの間での繁殖挑戦が行われるということを意味しています。前回、「秋田県、男鹿水族館GAO のフブキ (Fubuki) が二歳となる ~ 2023年のシーズンのユキ (Yuki) を考える」という投稿でこの問題を考えたのですが、私見ではやめたほうがよいだろうという趣旨で書きました。過去のデータなどを用いてかなり説得的な内容で論を展開したつもりです。しかし種別調整者が豪太/ユキの間でのさらなる繁殖に踏み切らざるを得ないのは、日本のホッキョクグマ界の個体の血統の極端な偏りの存在によって「第三の血統」をどうしても豪太/ユキのペアの間で、さらにもうけて欲しいということに尽きるでしょう。この場合、赤ちゃんの性別は雄(オス)が強く望まれます。
②についてですが、「獣舎」とありますが、やや不明瞭な表現だと思います。考え方によっては、日本の飼育下のホッキョクグマは全て「獣舎」があるという言い方もできるからです。
③は実に不可解とも言えます。パートナーとなる雌(メス)の個体の来園を前提とせずにBL契約とは、どういうことでしょうか。これは、フブキの権利は姫路市立動物園(姫路市)に帰属するため、フブキの名古屋への移動と、そこでの飼育に関する契約を締結する際の契約者の主体(これは本来は姫路市と名古屋市となるはずですが)の当事者の一方を姫路市ではなく男鹿水族館(秋田県)とするための契約上の技巧的な裏技....そう理解しておくべきでしょうか? 男鹿水族館(秋田県)はフブキの権利を有していませんので、名古屋市との間での「預託契約」の当事者には成り得ません。ですので、「預託」を避けてBL契約とすれば名古屋市との契約の当事者になることが可能となる....そう考えたのでしょうか? しかし私の理解では、実はこれもできないと思っています。では、何故のBL契約なのでしょうか....。もともとBL契約というのは英米の Common Law の体系から発生した契約概念であり、英米法と親和性があります。一方でローマ法体系を起源としているフランス、ドイツ、日本の法体系とBL契約の概念は親和性はあまり高くないのです。

④についてですが、これは以前に「名古屋・東山動植物園の苦闘の繁殖記録 ~ ユキコ、そして二世代の「トロイカ体制」実らず」という投稿を行っていますので、それを御参照下さい。世界の飼育下のホッキョクグマの情報を管理しているドイツのロストック動物園の資料によれば、東山動植物園で(一時的ではあれ)飼育されたことのある個体は以下となります。
# 221 Yukiko 1956? - 1984 F
# 991 Millie 1992 - 2015 F
#1228 1966? - 1986 M
#1229 1966? - 1990 M
#1230 1966? - 1993 F
#1307 Sasquatch 1989? - 2020 M
#1312 Aurora 1990 - 2016 F
#3203 1956? - 1967 M
#3214 1965 - 1965 ? (stillborn)
#3215 1966 - 1967 F
#3241 1966 - 1966 ? (誕生2日後死亡)
#3214 と#3241 は同園で誕生したもののすぐ死亡してしまった個体です。それを除きますと合計9頭となるはずです。同園は1951年からホッキョクグマを飼育していると記事にはありますが、ロストック動物園の資料の記録では1957年からとなります。仮に1951年からの飼育が事実だとしますと、ロストック動物園の資料との頭数差の4頭はこの時期に存在していた個体かもしれません。しかし、この頭数差である4頭は、その後どうなったのでしょうか? おそらく、資料上はその権利が動物商に移転している可能性は大きいでしょう。そこで記録が切れてしまっている....そういうことかもしれません。これについては、そのうちに探求したいと思っています。
(資料)
中日新聞 (Jan.18 2023 - 秋田から元気な人気者をお迎え 東山動植物園「大切に育てたい」)
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| 2023-01-19 02:00
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