街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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2017年 11月 04日 ( 1 )

札幌・円山動物園の「新ホッキョクグマ飼育展示場」が竣工 ~ その経緯と意義を考える

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ララ (Белая медведица Лара / Eisbärin Lara)
(2015年7月23日撮影 於 札幌・円山動物園)

札幌の円山動物園で建設中だったホッキョクグマの新しい飼育展示場が完成しました。以前には「仮称)ホッキョクグマ・アザラシ館」と呼ばれていましたが円山動物園は11月2日付けのHPでの告示において「ホッキョクグマ館」と言い切っていますのでこれが正式名称であると考えてもよいかもしれませんが、この点についてはまだはっきりしない点も残りますので現時点で当ブログでは「新ホッキョクグマ飼育展示場」と呼んでおくことにします。間もなく内覧会も開催されるそうですが、この新飼育展示場についてスペック的な面を語ることが本投稿の目的ではありません。

この新施設の具体的な概要は次第に明らかになっていくと思いますので今回はそれまでの経緯を振り返りつつ、その新飼育展示場の意義について触れていきたいと思います。そもそもこの新施設建設の発端となったものは2008年12月に同園で誕生したイコロとキロルの雄(オス)の双子を欧州(及びロシア)の個体と交換したいという2009年春からの案から発展して生じた状況に由来しています。円山動物園は2009年に欧州のEAZAのコーディネーターとアムステルダムで接触しその案を相手側に提示したものの、それに対しての返答は否定的なものでした。その理由として報じられているのは日本におけるホッキョクグマの飼育頭数の多さ(国別ではアメリカに次いで世界第二位)によって日本国内での繁殖が十分可能であり欧州個体との交換には意義がないという理由でした。多分この報道は正しいでしょう。私がEAZAのコーディネーターだったとしてもおそらく同じ返事をしただろうと思います。さてこういった事態となって日本国内におけるホッキョクグマの繁殖にアクセルが踏まれたわけで、それによって2010年1月の「2010道声明」、そして次に2011年2月に「共同声明2011」が明らかにされたわけです。これらを主導したのは当時の日本の動物園におけるホッキョクグマの種別調整者であった旭山動物園のF氏だったわけですが、F氏はまさに日本のホッキョクグマ界にとっての救世主でした。その最も大きな成果が浜松におけるバフィンとモモという素晴らしい母娘の存在なのです。
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デナリ (Белый медведь Денали / Eisbär Denali)
(2015年7月23日撮影 於 札幌・円山動物園)

こういった動きと併行して円山動物園は2012年夏に再度欧州側にアプローチを行ったわけですが、その相手方はドイツのハノーファー動物園でした。円山動物園は2010年12月に誕生した雌(メス)のアイラをハノーファー動物園に提示し、同園で飼育されていたナヌーク(場合によってはシュプリンター)と交換したいと申し出たわけです。これについては「ドイツ・ハノーファー動物園と個体交換交渉を行った札幌・円山動物園 ~ その背景を読み解く」、及び「ドイツ・ハノーファー動物園に2012年夏に札幌・円山動物園が提示した交換候補個体はアイラだった!」という二つの投稿を御参照下さい。円山動物園は実に絶妙に「一本釣り」の相手方を選択して交渉を行ったわけです。ハノーファー動物園はこの話に非常に乗り気になって検討を重ねたものの、円山動物園のホッキョクグマ飼育展示場が欧州におけるEEPを構成する個体群を飼育するのに適合した基準を満たしていないことによってこの話は頓挫してしまったというわけです。そしてこの段階において円山動物園はホッキョクグマの「飼育基準」(通常はマニトバ基準、あるいはEAZAの基準)を満たす飼育展示場を建設しなければ自園所有の個体(つまりララの子供たち)の欧州個体との交換は実現しないことを明確に認識するに至ったというわけです。
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ララ (Белая медведица Лара / Eisbärin Lara)
(2013年11月24日撮影 於 札幌・円山動物園)

2009年春から円山動物園が描いてきた案が、その実現に向けてこうしてその基本条件が整うまで約8年を費やしたわけですが、本当に長かったと言わざるを得ません。同園内にここ数年にわって建設されてきたいくつかの施設は同園の基本計画に沿ったスケジュールによって建設されてきたわけですが何故ここまでホッキョクグマの新飼育展示場の完成が後回しになってしまったかは残念でなりません。こうした欧州個体とララの子供たちとの交換を実現させようといった意思がなくても円山動物園は基本計画に沿って新しいホッキョクグマの飼育展示場を完成したかもしれませんが、その場合には飼育展示場に要求される「基準」といったものは考慮されない施設ができあがっていたことでしょう。たとえば静岡の日本平動物園にはそういった「基準」といった発想がなかったわけで結果として現在のあのような施設が完成していたわけですから、円山動物園もそうなっていた可能性は否定できないでしょう。日本平動物園に「基準」という発想がなかった理由はピョートル(ロッシー)の所有権を持つレニングラード動物園にそういった発想がなかったからです。ところが円山動物園はハノーファー動物園からそういった「基準」といった現代における飼育下のホッキョクグマに要求される条件を突き付けられたことによって「基準」を強く意識するようになったということです。

さて、こういった円山動物園が今回の新しい飼育展示場を完成するまでの年月の間に欧州の状況も変化してきたわけです。2012年あたりは欧州では雌(メス)の幼年・若年個体が不足していた状況だったわけですが、現在ではこの問題は解消しており、むしろ雄(オス)が不足してきているといった状態です。とりわけ雄(オス)の壮年個体の不足が生じています。ロッテルダム動物園のエリック、ヘラブルン動物園のヨギ、ラヌア動物園のマナッセ、オールボー動物園のラルスといった繁殖能力に定評のあった雄(オス)たちが次から次へと亡くなってしまっているわけです。一方で日本では雌(メス)の幼年・若年個体で溢れかえっており彼女たちはパートナーの確かな見込みすらあまりないといった状態です。
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デナリ (Белый медведь Денали / Eisbär Denali)
(2013年11月2日撮影 於 札幌・円山動物園)

私は円山動物園がこの新しい飼育展示所に現在既存の飼育展示場を合わせていったいどういったホッキョクグマ飼育を考えているのかはわかりません。しかし常識的に、そして合理的に考えればこうではないかといったことならばある程度は考えることができます。まずやはり国外からの1~2頭の雄(オス)の幼年:若年個体の導入でしょう。仮にマルルとポロロの双子姉妹を引き離さずにいたのならばこの双子姉妹に対して国外から導入した雄(オス)の一頭をパートナーにした繁殖を新飼育展示場で試みるということがベストであったと思いますが、マルルとポロロは引き離されて飼育されてしまっていますのでこの案はベストであるとは言えなくなっています。そうなれば間もなく三歳になるリラは母親であるララとの同居期間が非常に長くなっていますので繁殖成功の可能性が高いという経験的知見を重視してリラを新飼育展示場の主役にするのがよいかもしれません。欧州やロシアにおいていったい日本に送り出す個体がいるのかどうかということは問題なのですが、いることはいますが送り出す意思があるかどうかが問題です。こういったことの考察は極めて興味のあることですので稿を改めたいと思います。欧州側が札幌に送り出してもよいと考える個体が果たして血統的に日本のホッキョクグマ界の永続に寄与できるかは全く別の問題です。ただし....一般的にこう考えておいてよいと思うことは、欧州で頭数が過多となっている血統は日本にはほとんど、あるいは全くない血統である可能性が強いということだけは言えるでしょう。しかし欧州の個体が来年2月頃にオープンする予定のこの円山動物園の新飼育展示場に開館と同時に姿を見せるかといえば、そういった兆候は少なくとも私には感じられません。欧州側にそういったことが考慮されたホッキョクグマの移動計画が伝わってこないからです。仮にどこかの動物園の個体が欧州域外に移動するとすれば、まずその前に欧州域内での個体移動がいくつか行われねばならず、そういったものに牽引されて欧州域外への個体移動がなされることになるはずだからです。 欧州域外(つまり日本)への個体移動が仮にあるとすれば来年2018年の11月以降でしょう。

(資料)
札幌市円山動物園 (Nov.2 2017 - ホッキョクグマ館内覧会を開催します)
岩田地崎建設株式会社 (Aug.7 2017 - 円山動物園(仮称)ホッキョクグマ・アザラシ館新築工事(主体工事) 社会貢献活動で円山動物園より感謝状が贈呈されました。)

(過去関連投稿)
(*ミラーナ関連)
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(*ハノーファー動物園関連)
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札幌・円山動物園のマルルが熊本、ポロロが徳島の動物園に移動が決定 ~ ララの2年サイクル繁殖が継続へ
ララの子供たちの将来(下) ~ ドイツ・ハノーファー動物園のシュプリンターとナヌークのハロウィン
モスクワ動物園 ヴォロコラムスク附属保護施設のミラーナがドイツ・ハノーファー動物園へ
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by polarbearmaniac | 2017-11-04 21:00 | Polarbearology

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