街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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2018年 01月 08日 ( 1 )

ロシア・カザン市動物園のマレイシュカが旧飼育展示場で迎えた最後の冬 ~ 5月末に新動物園がオープン

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マレイシュカ (Белая медведица Малышка/Eisbärin Malyshka)
Photo(C)Казанский зооботсад

ロシア連邦タタールスタン共和国の首都であるカザンの動物園といえば現在、世界の飼育下のホッキョクグマにおいて一大勢力になっている「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」の源流の一つとなった動物園であることは言うまでもありません。ペルミ動物園のアンデルマの息子である故メンシコフのパートナーであったウスラーダがこのカザン市動物園で1987年に生まれているからです。ウスラーダを産んだ故ディクサ (1973 ~ 2006) については以前に「女帝ウスラーダとシモーナ、コーラ、リアの三頭の娘たち ~ 偉大な母親たちの三代の系譜」という投稿で彼女の生前の姿として確実に確認できる唯一の写真を御紹介したことがありました。この偉大なホッキョクグマであった故ディクサについては乏しい情報を忍耐強く収集して改めてその実像を御紹介したいと計画しています。そしてその際には最近発見した彼女の唯一の映像、つまり過去の報道アーカイヴに残されていた彼女の幼少期の映像をご紹介したいとも考えています。 要するに「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」とは、アンデルマの息子である故メンシコフと故ディクサの娘であるウスラーダというペアが成し遂げた世界的な一大血統勢力であるといったほうが正確であるということなのです。その意味では「アンデルマ/ディクサ系」と呼んだ方がより適切だったのかもしれません。
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マレイシュカ  Photo(C)Казанский зооботсад

さて、その故ディクサの娘であるウスラーダ、その妹にあたるのが現在カザン市動物園で飼育されている現在22歳のマレイシュカであり、このマレイシュカはカザン市動物園で故ディクサから1995年11月に誕生して以来ずっとこの動物園で暮らしており、過去に4回の出産で4頭の子供たちを無事に育て上げた実績を持つ素晴らしいホッキョクグマなのです。その強靭な性格は姉であるウスラーダとよく似ているといってよいでしょう。しかしいかんせんこのカザン市動物園のホッキョクグマの飼育展示場の飼育環境は劣悪であり、こういった動物園で生まれ育ったウスラーダやマレイシュカの偉大さとは大きな対比を感じざるを得ません。報道によりますとカザン市動物園は現在の場所に近接したエリアに新しい動物園の建設工事が進行中でしたが、とうとう今年2018年の5月に完成してその月の末にオープンすることが決定したそうです。良い意味でも悪い意味でも「歴史と伝統を背負った」現在のカザン市動物園、そ劣悪な飼育環境で暮らすマレイシュカにとっては現在のこの飼育展示場で迎える最後の冬ということになるのです。同園のスタッフは昨年遅れにマレイシュカの飼育展示場の中に雪だるまを作ってやったそうでマレイシュカはそれに対して非常に喜んだということが同園のHPで紹介されています。
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マレイシュカ  Photo(C)Казанский зооботсад

さて、以前からこのカザン市動物園については非常に謎の多い動物園であるということを何回かの投稿で述べてきたつもりです。おおむねそれらはホッキョクグマの血統に関して正確さに欠ける情報を発表したり、あるいは個体の健康に関して正確な発表を行わないなどといった疑惑がいくつもあるということだったわけです。ちょっとここで皆様に参考となる「旅の知識」を披露しておくことにしましょう。最近はホッキョクグマに会いにロシアの動物園に行かれる方も増えてきていますので、そういった方々にも役に立つ情報だろうと思うからです。私は、確か初めてのカザン市動物園の訪問時だったかの時に入り口で若い女性のガードマンらしき人に呼び止められました。その女性は私の持っていた一眼レフカメラを指さして、「そのカメラを持って入園するのならば追加料金を払ってください。」と言われたわけでした。その瞬間、私はすぐにあることに気が付きました。カザン市動物園というのは入園者の少ない動物園で、ちょうどその時に入り口にいたのは私だけでした。つまり不当な金銭要求であることは間違いないと感じたわけです。私はそのガードマンらしき女性にこう言いました。「払いましょう。ただし領収書を書いてください。領収書には受取人として園長さんのサインが欲しいので園長室に一緒に行きましょう。」と言ったわけです。その女性はその瞬間かなり動揺したようでした。そして私のカメラを指さして、「あなたは "любительский" のようですから払わなくて良いです。」と言ったわけです。この "любительский" (リュビチェルスキ)というのは「愛好家」と言う意味です。実は以前に私はこの単語をモスクワ動物園の入園者の女性に教えてもらっていたので、すぐに意味がわかったということです。仮にこれからロシアの動物園に行かれる方がいて入り口でカメラを指さされて何かを言われたら必ず "любительский" (リュビチェルスキ)と返事をして下さい。行かれた方が女性ならば(日本からロシアの動物園に行かれる方は全て女性のようですが)、その時は女性形で "любительская" (リュビチェルスカヤ)と言うことになるはずです。これだけ言えばロシア人は直ちに理解します。 職業カメラマンならばカメラ持ち込みに追加料金を払えという要求は必ずしも不当とは言えないでしょう。しかしアマチュアならば趣味で撮影するのでカメラ持ち込みに追加料金は不要であるという理屈も合理性はあるわけです。つまりそのガードマンらしき女性は自分の不正な要求を引っ込める口実のためにその理屈を援用して要求撤回を正当化しようとしたというわけなのでしょう。
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マレイシュカ  Photo(C)Казанский зооботсад

ところがカザン市動物園の入口のガードマンらしき女性の要求には事前の伏線があったのです。まず入場券売り場でチケットを買い、そして入口で提示した場合はそのチケットを少し切って返してくれるはずなのですが、その時は入口の女性は私からチケットを完全に回収してしまおうとしたわけです。何故そうしようとしたかと言えば、完全に回収したチケットはチケット売り場に還流されて再び別の来園者に売ることができるわけです。つまり私が払った入園料はチケットの売上金の外側の金として残るという仕組みなのです。これは一般的には不正行為と呼ばれているものです。私は入口でチケットを完全に回収されそうになったので、「記念にチケットの写真に撮りますから」と言ってチケットを一度返してもらってその写真を撮ったあとにそのチケットを自分で半分に切って入口の女性に返したわけです。その女性はかなり立腹した様子でした。なにしろ破られたチケットは「再利用」のためにチケット売り場に還流できなくなってしまったからです。この一部始終を見ていたのが別のガードマンらしきその問題の女性でした。「とにかくこの東洋人から何が何でも金をふんだくってやろう」ということで「カメラ使用料金を払え」という要求をしてきたということでしょう。これがカザン市動物園というところだった(過去形)のです。ちなみに、他のロシアの動物園ではこういった体験をしたことはありません。欧州の動物園ではチケットにバーコードシステムが使用されている動物園が多く(ロシアではモスクワ動物園がそうです)システム的にチケットの「還流」はできません。日本の動物園でももちろん起こらないでしょう。ただしカザン市動物園ではあった(過去形)ということです。ただし私は現在ではこう考えています。ガードマンらしき女性が要求した「カメラ持ち込み料」の支払いを事実上拒否したのは正しかったと思います。しかしチケットの「還流」を防ぐために真っ二つに破いて返却したのはやり過ぎでした。あの、設備も満足ではない地方都市の質素な動物園で働いている女性の給料は非常に安いだろうと思います。実際にそういった女性たちの身なりは彼女たちの経済状態を反映したものでした。ですから、チケットの「還流」を黙認しておくべきだったろうと思っています。確かにそれは「不正行為」に対して見て見ないふりをすることを意味しています。しかしそういったことによって経済的に恵まれない人々への一種の「救済」が行われているということがあの国の社会であるということです。そういった「不正」を社会システムの中に取り込んでいくことによって弱者に対する「施し」を生み出す...これがある種の社会文化なのです。そういったことを「飲み込んでいく」と初めてあの国の一部の実相というものが理解できるということです。スラヴ文化圏を理解するのは容易ではありません。私たちとはかなり物差しが異なっているからです。


マレイシュカのプロフィール (The profile of Malyshka the polar bear at Kazan Zoological Garden, Russia, on Aug.14 2015. - Белая медведица Малышка в Казанском зооботсаде)

さて、ここで現在工事中で完成が目前の新動物園の映像を御紹介しておきましょう。この新しい動物園でなんとかマレイシュカに再会したいと心から願っています。



ウスラーダ、マレイシュカ、ゲルダといったホッキョクグマたちは本当にロシア以外では会えないタイプの素晴らしいホッキョクグマたちなのです。彼女たちのふてぶてしさには魅了されてしまいます。アンデルマ、シモーナ、ムルマというタイプのホッキョクグマたちは必ずしもロシアにしかいないというわけではありませんが、しかしあの重心の低い重量感は実にロシア的です。

(*追記)この「マレイシュカ」という名前はロシア語の綴りでは "Малышка" であり、これを発音通りに表記すると「マルィシュカ」となるのが本来は正しいわけです。そしてラテン文字への変換としては "Malyshka" が正しいのですが、カザン市動物園は血統登録を行った際にロストック動物園に対してこれを "Maleeshka" として登録してしまったわけです。これですと日本語では「マレイシュカ」という表記になってしまうわけで、当ブログではこの血統登録上の "Maleeshka" を採用して「マレイシュカ」という表記を行っています。しかし本来は「マルィシュカ」となるべきであることは言うまでもありません。

(資料)
Казанский зооботсад (Dec.22 2017 - Малышка и снег)
Комсомольская правда (Dec.15 2017 - К лету 2018 года в Казани заработает новый зооботсад)
Татар-информ (Dec.15 2017 - В мае 2018 года откроется обновленный Казанский зооботсад)
inkazan.ru (Apr.4 2014 - Казанский зоопарк: прошлое, настоящее, будущее)
Вечерняя Казань (Apr.15 2013 - Медведь в пломбире)

(過去関連投稿)
ロシアの3つの動物園が共同で異種間移植(ホッキョクグマ → ヒグマへの胎仔移植)の実験を行うことを発表
ロシア・カザン市動物園の「国際ホッキョクグマの日」のマレイシュカの姿 ~ 昨年末には出産に成功せず
ロシア・カザン市動物園に短期出張したアルツィンがチェリャビンスク動物園に帰還 ~ 行方不詳のユーコン
ロシア連邦・タタールスタン共和国 カザン市動物園の20歳のマレイシュカ、昨シーズンは出産ならず
ロシア・タタールスタン共和国 カザン市動物園のマレイシュカの夏の日 ~ 知られざる偉大な母
ロシア・カザン市動物園のマレイシュカの近況 ~ 再び母としての姿を見せるチャンスはあるか?
ロシア・カザン市動物園のマレイシュカの近況 ~ 「甘いおやつの日」のイベント
ロシア・カザン市動物園が誇る自園の雌(メス)の個体の高い「育児成功率」 ~ 根拠薄弱な数字の魔術
ロシア・カザン市動物園のマレイシュカに人工授精が計画される ~ ドナー候補はどの雄(オス)の個体か?
ロシア・カザン市動物園のマレイシュカの近況 ~ 人工授精を行う決断をした同園
ロシア・タタールスタン共和国 カザン市動物園のマレイシュカの習慣化した旺盛な食欲と堂々たる体型
(*2011年9月 カザン市動物園訪問記)
カザン市動物園へ ~ 貧弱な飼育環境と大きな繁殖実績との間の巨大なパラドックス
カザンの星、マレイシュカお母さんの素顔
カザンで見たユーコン (天王寺動物園、ゴーゴの父) の素顔
カザン市動物園訪問2日目 ~ 疑惑から事実の確定へ
(*2013年9月 カザン市動物園訪問記)
成田からモスクワ、そしてカザンへ ~ 別れが目前に迫った母娘への想い
シャリアピンパレスからカザン市動物園へ ~ 別れの時が迫ったマレイシュカとユムカの母娘の姿
マレイシュカお母さんの性格と母性
ユムカの性格と素顔 ~ カザンに初雪の降った日...そして別れ
(*2015年8月 カザン市動物園訪問記)
カザン市動物園、その疑惑と謎に満ちた不可解な状況 ~ マレイシュカとの再会
マレイシュカは年末に出産するか? ~ 劣悪な飼育環境にも逞しく生きるホッキョクグマのロシア魂
ユーコン (Белый медведь Юкон - 姫路ホクト、白浜ゴーゴの父)   (1988 ~ 2014)
by polarbearmaniac | 2018-01-08 01:30 | Polarbearology

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