街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

プロフィールを見る

2018年 01月 09日 ( 2 )

デンマーク・オールボー動物園で故ラルスの安楽死を執行した獣医さんの回想 ~ "ラルスとの悲しい別れ"

a0151913_23263640.jpg
故 ラルス (Eisbär Lars/Lars the Polar Bear)
(2017年7月29日撮影 於 デンマーク、オールボー動物園)

ベルリン動物園で2011年3月に悲劇的な死を遂げた故クヌート、その父親であったラルスは昨年2017年の9月18日にデンマークのオールボー動物園で23歳でこの世を去りました。私は彼の死の一ヶ月半ほど前にオールボー動物園を訪問して彼に会っていますが、その時の彼の外見から受けた印象は私が2009年9月にベルリンで彼に会ったときと比較すれば万全の体調ではなかったことは明らかであるようにも感じたものでした。彼の健康状態についていろいろと囁かれていたというのも事実でした。

さて、そのラルスの治療、及び安楽死の執行を行ったオールボー動物病院 (Aalborg Dyrehospital) の獣医師であるビーリト・オーケア・ソーアンセン (Berit Aakjær Sørensen) 氏が昨年の11月に同動物病院のHPに "Trist farvel til Aalborg Zoo`s Isbjørn Lars (ラルスとの悲しい別れ)" という寄稿を行い、ラルスの生涯の最後の時期に彼と共に過ごした最後の日についての回想を行っています。非常に興味深い回想ですのでその要点を御紹介したいと思います。

まず、ソーアンセン獣医師がラルスの治療を担当する経緯となった前提としては「・デンマーク・オールボー動物園のラルスの歯科治療措置が行われる ~ 併行して健康診断も実施」という投稿でご紹介しました昨年9月5日に行われたラルスの歯科治療措置の際に同時に行われた血液や体毛のサンプル採取などによってラルスに肝機能値の異常値が検出されたことが発端となったそうです。オールボー動物園の専属獣医師であるイェンスン氏はオールボー動物病院のソーアンセン氏に協力を依頼してきたためにソーアンセン氏とその他二名のスタッフは直ちにオールボー動物園に向かい、そしてラルスに対する超音波診断を行うことを決定したそうです。そして以下のような手順でラルスの診断を行うことにしたそうです。まずはラルスを麻酔で眠らせた後に彼の肝機能値を調べるために血液検査を行うわけですが、その目的はラルスの肝臓の生体組織検査の後で彼の血液に凝固力があるかをチェックするためだそうです。肝機能に障害がある場合は血液の凝固力が弱いために止血作用が弱くなって出血が止まらない場合が十分に想定できたからだそうです。

さて、ラルスの診断を行う月曜日(つまり9月18日)の早朝にソーアンセン氏やイェンスン氏といった獣医師からなる治療チームはオールボー動物園に集合したそうです。そして正にこの日がラルスの生涯の最後の日となったわけです。まずラルスを麻酔銃で眠らせるということが行われました。ただちに超音波診断が開始されると同時に、前もって決めていた手順に従ってラルスから血液サンプルが採取され、スタッフの一名はただちにオールボー動物病院にそのサンプルを持って行って血液検査が行われたそうです。結果は幸いなことにラルスの血液は凝固作用があるという結果が出たものの、ラルスの肝機能値は二週間前に行われた歯科治療措置の際の値よりもさらに高い異常値を示していたそうです。一方、オールボー動物園ではラルスの超音波診断が行われていたわけですがラルスの腹部の肝臓の付近にはこぶのようなものがあるものの、それが本当に肝臓にできたものなのかを完全には特定できなかったそうです。
a0151913_434624.jpg

次の段階として、スタッフはこのこぶのようなものが果たして悪性の腫瘍なのかを調べるといった段階に進んでいったそうです。そしてラルスの肝臓、腎臓などからサンプルを採取して顕微鏡による検査が行われたそうです。その結果としてラルスの肝臓は悪性腫瘍に冒されていることが判明したとのことです。その段階に至ってソーアンセン氏やイェンスン氏といった獣医師からなるチームはラルスの年齢や行動にみられた変化などを慎重に考慮しつつ、動物福祉上の理由から("dyreværnsmæssige årsager)、オールボー動物園としての意思としてラルスを現在の状態のままで安らぎを与えてやるという重大な決断を行うことを決定したそうです。安楽死はただちに執行されたそうです。麻酔剤によって眠っているラルスの血管にさらに多量の麻酔剤が投与されました。ラルスの心臓の鼓動はやがて静かに停止したのでした。
a0151913_28146.jpg
故 ラルス (Eisbär Lars/Lars the Polar Bear)
(2017年7月29日撮影 於 デンマーク、オールボー動物園)

ソーアンセン氏は続けて語ります、「動物の命を奪うことは決して楽しことなどではない。動物と長い期間にわたって特別な関係を築いた場合などは彼らとの間に特別の絆が生まれるために彼らとの別れは非常につらいものとなる。しかしその一方で私はラルスの体に起こっていたことを見つけ、その結果としてラルスがもうこれ以上苦しまなくてもよくなったことについては、何か安堵したような気持ちにもなるのである。(中略) 獣医師としての職務を果たせた一日であった。しかし同時に本当に悲しい一日だった...。」

ソーアンセン氏はラルスの生涯の最後の日を獣医師という職業人として実に冷静に記述し、そして彼の安楽死の瞬間も一切の感傷なく冷静に述べています。しかしラルスに永遠の安息を与えることができたことについて自分自身にある種の心の平安を見出しつつもラルスに対して深い愛情を寄せてその死を悼んでいます。

偉大な男ラルスはこうして私たちの許から永遠に去ったのでした。

さて、今回のオールボー動物病院のソーアンセン獣医師の回想によってラルスの健康診断と治療にソーアンセン獣医師が関与し始めたのは9月初旬のことであったことがわかりました。つまりオールボー動物園は、私が同園を訪問していたちょうどその時期にネット上でラルスの健康状態云々について議論が白熱していた時からさらに一ヶ月も経過してようやく彼の検査に踏み切ったということになるわけです。私はオールボー動物園は雰囲気もスタッフの方々も大好きな動物園ですしこれからも応援していきたいと思っています。しかしオールボー動物園が健康状態が良くなさそうなラルスを一ヶ月以上も放置に近い状態にしていたというのが事実であることを私は今となっては認めざるを得ません。非常に残念なことです。非常に苦々しい思い出を残してしまった昨年7月のオールボー動物園の三日間となってしまったわけです。そしてラルスに対しては私は本当に申し訳なかったと思っています。

(資料)
Aalborg Dyrehospital (Nov.26 2017 - Da isbjørnen Lars blev syg)

(過去関連投稿)
・ドイツ・ロストック動物園のラルスがデンマーク・オールボー動物園に無事到着 ~ メーリクとの繁殖への期待
・デンマーク・オールボー動物園で雌のメーリクと雄のラルスの同居が試みられる ~ TV番組に見る舞台裏
・ドイツ・ロストック動物園のヴィルマがデンマーク・オールボー動物園に到着 ~ ラルスとの再会
・デンマーク・オールボー動物園のヴィルマが急死! ~ 移動後二週間での不可解な死
・デンマーク・オールボー動物園のラルスの歯科治療措置が行われる ~ 併行して健康診断も実施
・デンマーク・オールボー動物園のラルス逝く ~ 亡き息子クヌートの許に永遠に旅立つ
(2017年7月 オールボー動物園訪問記)
・6年振りのオールボー動物園訪問 ~ 伸び伸びと暮らすホッキョクグマ親子
・ラルス、その実年齢以上に老けて見える「仕事師」の素顔
・ヌカ (Nuka)とキラク (Qilaq)、生後八か月のその美しき姉妹の行動の違い ~ 「見栄っ張り」と「情熱家」
・オールボー動物園訪問二日目 ~ ホッキョクグマ親子にたっぷりとある時間
・どちらがヌカ (Nuka) でどちらがキラク (Qilaq) なのか?
・メーリクお母さん、母親としての優れた管理能力を発揮
・オールボー動物園訪問三日目 ~ 疲れ気味の日曜日にもヌカとキラクの姉妹の濃厚な時間は流れる
・ヌカちゃん、キラクちゃん、メーリクお母さん、ラルスさん、お元気で!
by polarbearmaniac | 2018-01-09 06:00 | Polarbearology

ドイツ・ゲルゼンキルヘン動物園で誕生の赤ちゃん、生後五週間が無事に経過

a0151913_2034533.jpg
(C) ZOOM Erlebniswelt Gelsenkirchen

ドイツ・ルール地方のゲルゼンキルヘン動物園 (ZOOM Erlebniswelt Gelsenkirchen) で12月4日に13歳の雌(メス)のララ (Lara) が産んだ赤ちゃんはすでに生後一ヶ月が経過しています。現在の推定体重は2kgsだそうで、誕生時点からはほぼ四倍になっているようです。毎日60グラムずつ体重が増加していると同園は述べています。授乳の頻度は三時間から三時間半おきに一回というペースだそうです。母親のララ (Lara) は一週間に一度といったペースでごく数分間産室を離れるといった程度で、あとはずっと産室内で赤ちゃんと共に横になっている状態だそうです。産室内の様子が同園によって公開されていますのでご紹介しておきます。下をワンクリックしていただくと映像開始ページに飛びます。
a0151913_1950059.jpg

なんとか無事に成育していけそうな感じですが、まだまだ気が抜けません。

(資料)
ZOOM Erlebniswelt Gelsenkirchen (Jan.8 2018 - Eisbärbaby in der ZOOM Erlebniswelt wächst)

(過去関連投稿)
ドイツ・ゲルゼンキルヘン動物園でホッキョクグマの三つ子の赤ちゃん誕生! ~ 一頭が元気に成育中
ドイツ・ゲルゼンキルヘン動物園で誕生の赤ちゃん、無事に生後二週間が経過
ドイツ・ゲルゼンキルヘン動物園で誕生の赤ちゃん、順調に生後一ヶ月へ ~ 両目が開く
by polarbearmaniac | 2018-01-09 00:15 | Polarbearology

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
エッセイ、コラム
街角にて
未分類

最新の記事

ロシア・イジェフスク動物園で..
at 2018-02-23 00:30
ロシア・ノヴォシビルスク動物..
at 2018-02-23 00:15
ドイツ・ゲルゼンキルヘン動物..
at 2018-02-22 00:15
アメリカ・フィラデルフィア動..
at 2018-02-21 06:00
オランダ・レネン、アウヴェハ..
at 2018-02-20 23:45
ロシア北東部、チェクチ海地域..
at 2018-02-19 23:00
ハンガリー・ニーレジハーザの..
at 2018-02-18 23:45
ウクライナ・ムィコラーイウ動..
at 2018-02-17 23:45
アメリカ・ソルトレイクシティ..
at 2018-02-16 23:45
ロシア極北・ヤマル半島の掘削..
at 2018-02-15 22:30

以前の記事

2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ライフログ


人生と運命 1


スターリン―青春と革命の時代


モスクワは本のゆりかご


私のモスクワ、心の記憶


自壊する帝国 (新潮文庫)


甦るロシア帝国 (文春文庫)


嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


ロシア 春のソナタ、秋のワルツ-1999-21st


それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影


ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)


わがユダヤ・ドイツ・ポーランド―マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝


ベルリン戦争 (朝日選書)


Hof――ベルリンの記憶


カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺


北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)


慟哭の通州――昭和十二年夏の虐殺事件


主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録 (1965年)


藤田嗣治 異邦人の生涯


Barle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life As a Circus Act


Lenin's Tomb: The Last Days of the Soviet Empire


Resurrection: The Struggle for a New Russia


Hotel Adlon: Das Berliner Hotel, in dem die grosse Welt zu Gast war


Ein seltsamer Mann


Alma Rose: Vienna to Auschwitz


St Petersburg: A Cultural History


Gulag