街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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2018年 02月 04日 ( 1 )

男鹿水族館の豪太の次のパートナーはどうするか? ~ 種別調整者の方の熟考と決断に期待

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豪太 (Белый медведь Гота / Eisbär Gota)
(2013年7月27日撮影 於 男鹿水族館)

男鹿水族館の豪太(14歳)のパートナーであったクルミは先日1月28日に死亡が確認されたことは御承知の通りですが(享年21歳)、もうすでに苦境に立っている日本のホッキョクグマ界ですので早速次の段階のことを考えていかねばなりません。立ち止まるわけにはいかないのです。それは豪太の次のパートナーをどうするかということです。現在は2月初頭ですので急いで彼のパートナーを選定しませんと今年の繁殖シーズンに間に合わなくなってしまうわけです。順序立てて論理的に考えていきましょう。

男鹿水族館で豪太が繁殖に寄与する最大の意義は、日本のホッキョクグマ界での「第三の血統」の維持です。いつぞやも述べましたが単純に言えば日本のホッキョクグマ界には二大血統というものがあり、まずその第一は「ララファミリー」(ララ、ルル、ツヨシ、ピリカ、イコロ、キロル、アイラ、マルル、ポロロ、リラ、みゆき、ララのパートナーとしてのデナリ)、第二は「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」(ホクト、ゴーゴ、イワン、ラダゴル/カイ、ピョートル/ロッシー、シルカ、ヴァニラ)です。浜松のバフィンは前者と遠い関係にあり、モモは前者とはさらに遠く後者とは近い関係になります。男鹿水族館で「第三の血統」を誕生させるためには豪太は「ララファミリー」や「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」以外の血統の雌(メス)をパートナーにしなければならないわけです。この「第三の血統」が何が何でも必要である理由は、現在の「ララファミリー」と「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」の個体たちが繁殖に成功した場合、その次世代の個体たちの適切なパートナーがいなくなってしまうからです。ミルクが「第三の血統」であるからこそ「ララファミリー」のキロルは彼女をパートナーに得ることができたのです。
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ムルマ(豪太の母)(Белая медведица Мурма/Eisbärin Murma)
(2015年8月18日撮影 於 モスクワ動物園)

さて、豪太のパートナーとして「第三の血統」を誕生させることのできる「ララファミリー」や「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」以外の雌(メス)の個体となれば以下が該当してきます。旭川のサツキ(これは年齢的にもうほとんど不可能)、札幌のキャンディ(可能性は皆無ではないもののまず不可能)、仙台のポーラ(もうパートナーが存在)、仙台のナナ(年齢的に不可能)、上野のデア(もうパートナーが存在)、浜松のバフィン(これは年齢的にもうほとんど不可能)、豊橋のクッキー(これは年齢的にもうほとんど不可能)、白浜のオホト(これは年齢的にもうほとんど不可能)、姫路のユキ(もうパートナーが存在)、愛媛のバリーバ(これは年齢的にもうほとんど不可能)、愛媛のピース(持病により不可能)、鹿児島のカナ(年齢的に不可能).....こういうことになります。 つまり豪太とペアを組んで「第三の血統」を誕生させることのできる雌(メス)は国内には存在していないということです。となれば海外個体、つまりロシアの雌(メス)の個体の導入ということになるのですがこれはもう不可能に近いです。ロシアでは「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」以外の雌(メス)の個体は全てといってよいほど野生出身ですのでロシア国外には出られません。ということは、男鹿水族館で「第三の血統」の誕生が不可能であることを意味するわけです。すでに苦境である日本のホッキョクグマ界にとってはこの事実は更なる打撃なのです。
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豪太 (Белый медведь Гота / Eisbär Gota)
(2013年7月27日撮影 於 男鹿水族館)

さてそうなると豪太のパートナーは、第一の「ララファミリー」あるいは第二の「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」に求めざるを得ません。まず「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」から考えます。この血統で雌(メス)といえばヴァニラとシルカだけです。前者はパートナーがいます。後者はパートナーが確定しています。しかし後者のシルカは事情が許せば豪太と組めるという可能性は残ります。ただしかしそれはロシアの血統情報の不確実性のために(つまり豪太の母であるムルマはシルカの祖母である可能性が大)、この二頭のペアの形成は回避すべきだということです。
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ツヨシ (Белая медведица Цуёши / Eisbärin Tsuyoshi)
(2013年10月5日撮影 於 横浜動物園・ズーラシア)

さてそうなると「ララファミリー」です。ここで大本命となるのが豪太と同年代である横浜のツヨシ(14歳)です。もともとツヨシの横浜滞在は契約上は2繫殖シーズンだけのはずですので彼女を男鹿水族館に移動させるというのが総合的に考えれば正しい選択でしょう。横浜におけるツヨシについてはもう2月になっているもののまだ昨年の繫殖シーズンの結果は公にはされていません。通常で言えばこういったケースは繁殖に成功している場合が多いのです。何かの理由があってそれを公表していないのだろうと考えるべきでしょう。可能性の一つとしては人工哺育が行われているのではないかということです。この場合にはツヨシを飼育展示場に戻せるわけですが、そうなると「ツヨシには出産がなかったので展示を再開します」という虚偽を告知する必要が生じてきてファンとの間で信義上の問題が生じます。ですから赤ちゃんを人工哺育していてもツヨシを飼育展示場に出さないという選択肢をとるということになります。 ただ、はたしてどうでしょうか....横浜という大都市の動物園であるズーラシアがホッキョクグマの赤ちゃん誕生の事実を一般公開日の直前まで秘匿しておく事情はないと思われます。産室内のツヨシと赤ちゃんのモニター映像を公開してその成長をファンに知らせるということをやるべきでしょう。ホッキョクグマの赤ちゃん誕生の事実の公表とその後の成長に関する情報の継続的な発信には大きな労力が必要ですが、繁殖に成功した世界の動物園の大部分はそれを行っています。ズーラシアには赤ちゃん誕生の事実を隠す理由は見当たらないと思います。 さて、そういった情報発信がズーラシアから無い以上は、やはり人工哺育が行われているのではないかという疑念は依然として残り続けるわけです。正直言って私はズーラシアにおけるホッキョクグマの繫殖にはあまり興味がありません。話がすっかり横にそれてしまいました。問題のツヨシですがやはり豪太のパートナーとしてはどう考えても第一候補でしょう。しかし仮にズーラシアがジャンブイとツヨシとの間でのさらなる繁殖挑戦を希望してもう一シーズン、ツヨシを横浜に留め置きたいと希望した場合にはどうなるでしょうか。そうなると次の候補として帯広のアイラ(7歳)が浮上してくることになります。これはあり得る選択肢のように思います。また、旭川のピリカ(12歳)も候補になりますが、これは旭川におけるイワンという雄(オス)の個体の現時点における評価如何に関わってくるでしょう。しかし秋田県と釧路市との間の一種独特の関係を考えればやはりアイラ(札幌市所有)ではなくツヨシ(釧路市所有)がズーラシアから男鹿水族館に移動して豪太のパートナーとなるほうがはるかによいでしょう。それは仮にツヨシがズーラシアで出産していたとして、そしてその赤ちゃんが人工哺育になっていたとしてもです。
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豪太 (Белый медведь Гота / Eisbär Gota)
(2013年7月27日撮影 於 男鹿水族館)

日本の飼育下のホッキョクグマの繫殖のための個体再配置についてリーダーシップをとるのは旭山動物園のホッキョクグマの種別調整者の方の仕事です。外部の雑音を排除した熟考と決断に期待します。お会いしたことはありませんが陰ながら声援を送ります。

(*追記1)豪太と組んであくまでも「第三の血統」を誕生させる雌(メス)の個体を用意しようとすれば、既存のペアのうちから一頭の雌(メス)を引きはがして男鹿水族館に移動させて豪太のパートナーにするという方法がないわけではありません。純粋に血統的に言えば上野のデアが候補となるでしょう。次に仙台のポーラと姫路のユキです。ただしそれは全く無理な話であり考慮にすら値しない妄想話でしょう。

(*追記2)赤ちゃんが誕生しているものの一般公開の直前までその事実を公表しなかった有名な例としては自然繁殖ではドイツのヴィルヘルマ動物園が挙げられます(2007年誕生のヴィルベア)。その理由は例のクヌート騒動の翌年だったためにホッキョクグマの赤ちゃんの存在の公表によって世間が大騒ぎすることを避けるためだったと言われています。人工哺育の場合ではアメリカのバッファロー動物園のルナ(2012年誕生)のケースです。バッファロー動物園の場合は人工哺育のためにルナが順調に成育するかについての確信が持てなかったからでしょう。自然繁殖の成功にもかかわらず毎回において赤ちゃん誕生の事実を公表してこなかったのはロシアのカザン市動物園です。この動物園は赤ちゃん誕生の事実の公表と一般公開開始を同じ日に行うわけです。まさに不意打ちの効果が絶大でした。一方で、赤ちゃん誕生の事実は発表しても一般公開開始日を発表しないというのがモスクワ動物園です。赤ちゃんたちが屋外に出るタイミングは全て母親に任せるという姿勢だからです。まあ、モスクワ動物園にはシモーナという極めて優れた母親がいましたから動物園としては彼女に全幅の信頼を置いたということなのでしょう。そもそもモスクワ動物園には「一般公開開始」といった概念がありません。それはホッキョクグマの母親が決めることであって人間が決めることではないというわけです。ノヴォシビルスク動物園もこれに近い考え方です。

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by polarbearmaniac | 2018-02-04 03:00 | Polarbearology

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