街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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2018年 02月 19日 ( 1 )

ロシア北東部、チェクチ海地域のホッキョクグマたち、海氷面積の減少にもかかわらず依然として頭数は安定

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シルカ (Белая медведица Шилка/Eisbärin Shilka)
(2015年7月15日撮影 於 大阪・天王寺動物園)

1973年に締結された「ホッキョクグマ保護に関する協定 (Agreement on the Conservation of polar bears) 」はホッキョクグマが生息している地域を自国領内に持つカナダ、アメリカ、ロシア、デンマーク(グリーンランド)、ノルウェー(スヴァールバル諸島)の五か国によって締結されたわけですが、その協定の締結以来、この五か国のホッキョクグマ保護を行う監督官庁の責任者及び幹部と関係団体は「ホッキョクグマ生息国 ("Polar Bear Range States")」としてのホッキョクグマ保護に関して密接な協力体制を構築しています。この五か国の担当責任者、担当者は二年おきに合同会議の場をもっているわけですが、今回は今年2018年の2月2~4日にアラスカのフェアバンクスにて開催されました。ちなみに前々回の2013年のモスクワでの会議については「モスクワで「ホッキョクグマ保護国際フォーラム」が開催 ~ 保護協定締結40周年と今後の行動方針に向けて」という投稿で御紹介しています。また、その内容の一部に関しては「ロシアでのホッキョクグマ生息数未調査地域で研究者チームが本格的に生態・生息数調査を開始する」という投稿で御紹介していました。
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今回2018年のアラスカでの会議についてはこの「ホッキョクグマ生息国 ("Polar Bear Range States")」の五か国の共同によって POLAR BEAR RANGE STATES というHPが最近立ち上げられ、そのHPの中の "2018 Biennial Meeting of the Parties" というページの中で議題や報告の要約などが簡単に紹介されています。しかし会議が終了して間もない現時点ではまだ報告された内容やレジュメがアップされていない資料がかなりあるようです。さらに現時点では事務当局が英語のレジュメを入手できていない報告もあったことが記載されているのですが、そういったまだ外部には資料として公表されていないものの中にロシア連邦政府の天然資源・環境省 (Министерство природных ресурсов и экологии Российской Федерации) の国際協力局の局長代理であるイーゴリ・ヴェレシャギン氏の報告発表があり、その内容についてチュクチ自治管区 (Чукотский автономный округ) がHPでその要旨を初めて明らかにすると同時にインターファクス通信がやや詳しく報道しました。実に驚くべき(そして喜ぶべき)内容です。
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2013年9月に「温暖化による海氷面積減少にも影響を受けず生息数が減らないチュクチ海地域のホッキョクグマたちの謎」という投稿を行っているのですが、その投稿ではロシア北東部のチュクチ半島とチュクチ海地域にホッキョクグマの生態に関する科学的調査がアメリカの魚類野生動物保護局 (U.S. Fish and Wildlife Service; USFWS) によって行われ、海氷面積の減少にもかかわらずホッキョクグマの生息数は安定しており。また健康状態も良好であることが判明したという内容でした。
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それから約4年経ったわけで北極海全体の海氷面積の減少(それによって北極海航路が開発などされているわけです)は続いているといった現状のもとで今度はロシアのロシア天然資源・環境省がこの地域、つまり上のエリアではCSとされている地域において再度、科学的調査を行ったそうです。その結果としては依然としてホッキョクグマの生息数は安定していることが判明したとの内容です。調査の過程で三つ子を連れた母親もしばしば見かけ、生息数の面でも母親の健康状態の面でもホッキョクグマたちには温暖化の影響による自然環境の変化は現時点においては脅威にはなっていないとも語っています。ロシア橋北に暮らすホッキョクグマたち、環境の変化にもかかわらず実にしぶとくて、したたかに生きているようです。いや、それどころではなくかなり豊かに暮らしているらしいことは、三つ子を連れた母親をしばしば見かけたということでも明らかなのです。この三つ子の存在はそのエリアでのホッキョクグマの生態状況を推し量るバロメーターであるとさえ考えられているからです。 通常は、

① 海氷面積の減少によるアザラシ狩り可能期間の短縮。
② 接食不足による体重の減少。
③ 体重の減少した母親の出産による子供の成育頭数の減少。
④ 全体の生息数の減少


といった順番でホッキョクグマが絶滅に追いやられていくと考えられるわけですが、一般論として①による②は程度の差こそあれ比較的ストレートに起こり、③による④も必然の結果と考えられます。現在の時点で特定の地域は別としてあくまで全世界的レベルではホッキョクグマたちがなんとか持ちこたえている(と思われる)のは、②から生じるはずの③と④がすぐには起こっていないらしいからです。ところが今回問題となっているチュクチ海、チュクチ半島の地域のホッキョクグマたちは①が起こっているにもかかわらず②が生じていないということなのです。多くの三つ子を連れた母親の存在は②が起こっていないことを意味するわけです。仮に②が生じていれば三つ子の出産と育児は体力的に無理だからです。 ということは、あくまでこの地域のホッキョクグマたちに関する限りでは、まだ④までにはかなり時間があるということを意味しています。これは仮にあくまでこのチュクチの地域だけのことであったとしても、やはり嬉しいニュースだと思います。
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シルカ (Белая медведица Шилка/Eisbärin Shilka)
(2016年1月23日撮影 於 大阪・天王寺動物園)

さらにヴェレシャギン氏の報告内容では世界のホッキョクグマの生息数は約三万頭であるとも述べているそうですが、これは以前の投稿である「ロシアのホッキョクグマ生息数未調査地域への調査進行中 ~ 世界推定生息数約2万5千頭が上方修正必至の情勢」を御参照いただきたいのですが、非常に遅れていたロシア極北地域におけるホッキョクグマの科学的な生息数調査が行われている過程で、かつて(ソ連時代)の生息数調査に問題があり、実際はそういった過去の調査の結果よりももっと多くのホッキョクグマたちが生息していることがここ数年にわたって判明しつつあることが反映された生息数の数字であることは間違いありません。
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シルカ (Белая медведица Шилка/Eisbärin Shilka)
(2016年1月23日撮影 於 大阪・天王寺動物園)

国際自然保護連合 (International Union for Conservation of Nature and Natural Resources -IUCN)は間もなくレッドリスト (Red List) におけるホッキョクグマに関する評価の改定バージョンを発表するのですが、果たしてロシア極北で進行中の生息数調査の数字を部分的ではあれ採用して世界のホッキョクグマ生息数の数字を上方修正するかどうかに注目が集まります。常識的に考えれば2019年に終了するロシア政府の調査の最終報告がなされてからではないかとも思うのですが、ひょっとしたら現時点で評価地に何らかの形で反映させてくる可能性はあると思います。

(資料)
Polar Bear Range States (2018 Biennial Meeting of the Parties/2018 - Anchorage, Alaska)
Чукотский автономный округ (Feb.19 2018 - Белые медведи Чукотки адаптируются к изменениям климата)
Интерфакс - Россия (Feb.19 2018 - Популяции белых медведей на Чукотке ничто не угрожает - власти)
Nadv.ru (Feb.19 2018 - Учёные успокоили: Белому медведю на Чукотке ничто не угрожает)

(過去関連投稿)
モスクワで「ホッキョクグマ保護国際フォーラム」が開催 ~ 保護協定締結40周年と今後の行動方針に向けて
ロシアでのホッキョクグマ生息数未調査地域で研究者チームが本格的に生態・生息数調査を開始する
アメリカ地質調査所 (USGS) がアラスカで野生のホッキョクグマにカメラを装着し生態研究を開始
アラスカ北側のボーフォート海で2001年からの10年間にホッキョクグマの生息数は40%の減少が明らかになる
温暖化による海氷面積減少にも影響を受けず生息数が減らないチュクチ海地域のホッキョクグマたちの謎
ホッキョクグマの生態・生息数調査に衛星画像利用の試みがなされる ~ 果たして本当に有効か?
ホッキョクグマの生態調査方法 (“Capturing-and-Tagging 法”) が個体に悪影響がないことが判明
近年の海氷面積減少によりホッキョクグマの集団レベルでの北極点方向への移動傾向が明らかになる
ホッキョクグマの生息数評価をめぐる 「主流派」 と 「反主流派」 の主張の対立 ~ 過去、現在、未来..
ホッキョクグマ/ハイイログマ(グリズリー)のハイブリッドとホッキョクグマの将来に関する異なる見解
アメリカ地質調査所(USGS)の報告書が語るホッキョクグマの将来 ~ 彼らへの挽歌
ロシアのホッキョクグマ生息数未調査地域への調査進行中 ~ 世界推定生息数約2万5千頭が上方修正必至の情勢
by polarbearmaniac | 2018-02-19 23:00 | Polarbearology

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