街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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2018年 03月 03日 ( 1 )

モスクワ動物園・ヴォロコラムスク附属保護施設のアヤーナ、歯の治療から発見場所の謎を考察する

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アヤーナ (Медвежонок Умка-Аяна) 
Photo(C)Московское городское отделение партии Единая Россия

昨年2017年9月30日にロシア北東部、サハ共和国の内陸部のコルィマ河岸のホッキョクグマの本来の生息地から700kmも離れた場所でホッキョクグマの幼年個体が保護され、スレドネコルィムスクからヤクーツクを経てモスクワ動物園のヴォロコラムスク附属保護施設で飼育されることになった雌(メス)のホッキョクグマがアヤーナ (本名: ウムカ-アヤーナ /Умка -Аяна) ですが、現在では一歳になった彼女の近況について報じられています。その前にまずもう一度、このアヤーナがサハ共和国で保護され、移送先のモスクワ動物園のヴォロコラムスク附属保護施設 (Волоколамский питомник московского зоопарка) に入ったニュース映像を振り返っておきましょう。





同じ施設で飼育されている一歳年上の野生孤児のニカとの同居が当初の予定では計画されていたわけですが、まだそれは行われていないようです。アヤーナは野生孤児だった時に、まだ離乳期になっていなかったにもかかわらず猟師からいろいろな食べ物を与えられていたこともあって、当時の彼女の歯ではそういった食べ物には十分対応できなかかったために歯の状態に問題が生じていたそうで、その治療が何回か行われたようです。現在はまだバランスのとれた摂食を行うためのリハビリ状態だそうです。そのためにまだニカとの同居が行われていないというわけです。このアヤーナはホッキョクグマの本来の生息地から700キロも離れた内陸で保護されたわけですが、こういった彼女がかかえていた歯の問題から察するに、アヤーナは春頃にもっと北部の本来のホッキョクグマの生息地で孤児となっていたのを猟師が見つけて、その猟師は彼女に食べ物を与え続けて内陸深くまで彼女を連れて移動していた....これは真相だったとみて間違いないように考えられます。
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Photo(C)Московское городское отделение партии Единая Россия

現在のアヤーナは米やトウモロコシなどの穀類、肉、魚に加えて野菜や果物など、全体にバランスのとれた給餌が行われているそうです。近くにいるニカとは格子越しに交流ができており良好な関係となっているそうです。「国際ホッキョクグマの日」にはアヤーナには久し振りに彼女が生まれたヤクーチアの魚が彼女にプレゼントされたそうです。モスクワ動物園ではこのアヤーナ、そして一歳年上のニカの二頭をロシア動物園水族館連合のホッキョクグマ繁殖プログラムの中に組み入れる予定であることも明らかにされています。
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(C)Yakutsk.ru

カナダ、とりわけチャーチルを中心とした地域におけるホッキョクグマの野生孤児の保護については、その考え方、具体的方法、保護施設の在り方などについては最近ではかなり知られるようになってきています。そういったことは本ブログでもこれまで何回にもわたって投稿しています。どういった官庁に何に基づいてどういった権限があり、そしてそれに基づいて誰が判断して誰が捕獲し、そして誰がどうやって保護・飼育していくかといった社会におけるホッキョクグマの孤児の保護のシステムについての視点を述べてきたつもりです。このブログではロシアにおける野生孤児保護のシステムについても今まで、一件一件の具体例を事態の推移に沿って現在進行形の形で同じようにご紹介してきたつもりです。

日本の大学で野生動物保護を専門に研究されている方々の中には法治国家の社会システムにおける保護法理、保護行政についての理解に関心のない方がいるのではないかということを最近では感じています。「カナダ・マニトバ州チャーチルの当局者がホッキョクグマ孤児の保護方針の転換を主張 ~ 科学と倫理の相克」、「カナダ・マニトバ州 チャーチルで保護された二頭の幼年孤児は生息地に戻さずにアシニボイン公園動物園へ」、「カナダ・マニトバ州チャーチル付近で保護された二頭の野生孤児がアシニボイン公園動物園に到着」という投稿でご紹介した話題ですが、先日ふとしたことからある動画を見たのですが、その動画の中で「チャーチルの市長さんはどれだけの政治的影響力があるのですか?」といった質問をした方がいらっしゃいました。それに真正面に真摯に回答するには、現在のチャーチルにおけるホッキョクグマ孤児の保護のやり方は連邦政府の法に基づくのか、州政府の法に基づくのか、あるいは市町村の条例に基づくのか、あるいは法ではなく行政命令なのか、行政処分なのか、監督官庁の局長通達なのか、行政の裁量なのか、その保護政策が根拠としているものをまず知らねばならないのです。今までの保護方針の転換を主張するならば、その保護方針を転換させるには法改正が必要なのか、それともその他のやり方が必要なのか、必要ならばどのような手続きを経るのか(連邦議会に法改正案を提出する必要があるのか、州議会に提出する必要があるのが、あるいは請願書の提出なのか......そういったことが問題です。こういったことに対してチャーチルの市長さん(と市の評議会のメンバー)の意見が通るためには、保護方針の転換の是非を論じる公聴会や委員会における意見が多数ならばそれでよい場合とそれだけではできない場合の両方があります。その前に公聴会の構成メンバーに誰が入るのかが問題にもなります。そして、こういった公聴会や委員会では政治力ではなく合理的な説得力が問題となる場合がほとんどです。ですから、「チャーチルの市長さんにどれだけの政治的影響力があるのですか?」という質問は実は本質的な問題ではなく、正しくは「チャーチルの市長さんの意見は合理的で説得性があると思いますか?」といった質問を質問者の方はすべきだったでしょう。この質問者の方は、その質問に対して答えた回答者が野生動物(たとえばホッキョクグマ)の保護を高尚なものだと考え動物園(のホッキョクグマ)を見下して小馬鹿にするような態度を示したり、あるいはいくつもの点において事実誤認をしていたり、あるいは今回のチャーチルの問題の本質が実は科学と倫理の相克の問題であることに気が付かなかったり、こういったような回答者でなかったのならば質問者の方は当日は満足できた回答が回答者から得られたでしょう。私が察するに、その質問者の方は当日の回答者の回答には満足できなかっただろうと思います。

(資料)
Вечерняя Москва (Feb.26 2018 - Медведица Умка-Аяна любит фрукты и подружилась с Никой)
Московское городское отделение партии Единая Россия (Feb.27 2018 - Медвежонок Умка-Аяна готовится стать обитательницей зоопарка!)
Yakutsk.ru (Feb.27 2018 - Найденная в Якутии Умка-Аяна примет участие в возрождении популяции полярного медведя)
РИА Новости (Feb.16 2018 - Светлана Акулова: наша главная задача – привить любовь к природе и животным)

(過去関連投稿)
ロシア北東部サハ共和国で北極海岸より700キロも離れた内陸で野生孤児が目撃 ~ 保護に動く自然管理監督局
ロシア北東部の内陸をさまよう個体への対応の二つの選択肢 ~ 動物園での保護か生息地への移送・解放か?
ロシア北東部 サハ共和国の内陸でホッキョクグマの幼年個体が保護 ~ 生後一年未満の雌(メス)と発表
ロシア北東部 サハ共和国の内陸で保護された雌(メス)の幼年個体がスレドネコルィムスクの街に移送される
ロシア北東部 サハ共和国の内陸で保護された幼年個体がヤクーツクに到着 ~ ただちにモスクワへ
ロシア北東部サハ共和国で保護された幼年個体がモスクワ動物園のヴォロコラムスク附属保護施設に無事到着
ロシア北東部サハ共和国で保護された幼年個体、検疫終了後にただちにモスクワ動物園の本園に登場の予定
モスクワ動物園 ヴォロコラムスク附属保護施設で保護された孤児の名前が「ウムカ-アヤーナ」に決まる
モスクワ動物園 ヴォロコラムスク附属保護施設のアヤーナがニカと同居の見通し ~ 「適応化」へ
モスクワ動物園 ヴォロコラムスク附属保護施設のアヤーナの近況 ~ 魚の給餌量の多いロシアの動物園
by polarbearmaniac | 2018-03-03 06:00 | Polarbearology

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