街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

プロフィールを見る

2018年 04月 12日 ( 2 )

シンガポール動物園の27歳のイヌカの健康状態が悪化 ~ 視野に入った安楽死執行の選択

a0151913_1547140.jpg
イヌカ (Inuka the Polar Bear) Photo(C)AFP

シンガポール動物園を運営しているNPOであるシンガポール野生動物保護協会 (Wildlife Reserves Singapore) 、及びシンガポールの主要メディアが報じるところによりますと、シンガポール動物園で飼育されている27歳の雄(オス)のホッキョクグマであるイヌカ (Inuka) が4月3日に行われた健康診断において、加齢が原因である筋萎縮 (muscle atrophy) によって生じているとみられる後肢のひきずり歩行 (shuffling gait) の症状が確認されたとのことです。その他にも関節炎や耳の感染症なども確認されたそうです。ここ三ヶ月ほどイヌカの活動量は明らかに低下しておりプールで泳ぐことも少なくなってエンリッチメントとして与えられたコーンなどのおもちゃに対する反応も鈍くなっているとのことです。
a0151913_17551999.jpg
Photo(C)WILDLIFE RESERVES SINGAPORE

こういった状態を踏まえて獣医さんたちのチームはイヌカの健康に対して特別の監視・治療体制をとることにしたそうで、イヌカの関節炎や感染症に対して鎮痛剤や抗生物質の投与を行っているとのことです。次のイヌカの健康診断は4月中に行われる予定だそうですが、そこにおいて彼の症状に改善の兆候が見られなければ安楽死を行うといった処置が可能性として生じると獣医さんのチームは明らかにしています。
a0151913_1755145.jpg
Photo(C)LIANHE ZAOBAO

今回のイヌカの件について私にはやや引っかかるところがあります。シンガポール動物園の述べていることやメディアの報道から知る限り、いったいイヌカが安楽死までを視野にしたような病状であるかについては、いささか明確ではないように思うわけです。私が推察するに、実際のイヌカの病状は発表されている以上に悪くて彼の年齢を考えると治療によっても改善する可能性が極めて少ないということを現在でもうすでに判断しているのではないかということです。おそらく安楽死という処置は事実上は現時点で決定しているも同然であって、今月の早い時期に是非イヌカに会いに来てほしいということを示唆していると考えるのが妥当だと思われます。そう考えることには根拠があります。シンガポール動物園は安楽死の方法として、覚醒しない麻酔剤を使用するとメディアに語っているのですが、次の検査は麻酔剤を使用せねばできないはずであり、ということはイヌカの次の検査日は同時に彼の人生 ("Bear's life") の最後の日になるであろうことは容易に推察できるからです。ここでイヌカの今年に入ってからと思われる映像を一つ見てみましょう。



4月3日に行われたイヌカの健康診断の結果を10日間後にこうした形で発表するシンガポール動物園のやり方が、さりげなくファンに対してイヌカにお別れのために早く会いに来てほしいと告げている巧みな告知であるのかどうかについては意見は分かれるかもしれませんが、私は同園のファンに対する心遣いだろうという意見です。つまり、現時点で安楽死という結論はすでに決まっているものの、今回のイヌカの病状の発表はワンクッションの機能を果たして近日中にあるであろう結論のショックを前もって和らげておこうとするやり方であると私は思います。

(資料)
The Straits Times (Apr.12 2018 - Singapore Zoo's 27-year-old polar bear Inuka found to be in declining health after April 3 check-up)
International Business Times, Singapore Edition (Apr.12 2018 - Singapore Zoo polar bear Inuka, 27, suffering from stiffer gait, poor health in old age)

(過去関連投稿)
シンガポール動物園のシェバ、35歳で一生を終える...
シンガポール動物園のイヌカが同園内にオープンした新施設 ”Frozen Tundra” に移動
シンガポール動物園のイヌカの24歳の誕生日が祝われる ~ 赤道直下に暮らす体重550キロのホッキョクグマ
赤道直下、シンガポール動物園のイヌカが25歳に ~ 動物園の場所の緯度と出産日との間の関係
シンガポール動物園のイヌカの26歳の誕生会が連日開催となる ~ 彼の健康維持に万全を期す同園
シンガポール動物園のイヌカの近況 ~ 赤道直下のホッキョクグマの27歳の誕生会
by polarbearmaniac | 2018-04-12 18:00 | Polarbearology

ロシアのニジニ・ノヴゴロドのニジェゴロド動物園でロシアの飼育下と野生のホッキョクグマ保護会議が開催

a0151913_3465264.jpg
メンシコフ (1988~2016)
(Белый медведь Меньшиков/Eisbär Menschikow)

(2014年9月14日撮影 於 サンクトペテルブルク、レニングラード動物園)
(*仙台のラダゴル/カイ、静岡のピョートル/ロッシーの父、旭川のイワン、大阪のシルカの祖父、姫路のホクト、白浜のゴーゴの兄、浜松のモモの叔父)

ロシアのヴォルガ河流域の都市であるニジニ・ノヴゴロドのニジェゴロド (リンポポ)動物園(Нижегородский зоопарк/Зоопарк «Лимпопо») で、ホッキョクグマを飼育しているロシアの動物園の代表者、及びロシア科学アカデミーのホッキョクグマに関する専門家たち合計40名を集めた会議が3月下旬に開催されたそうです。この会議を主催したのはロシアの「野生動物協会 (АНО «Общество дикой природы») とニジェゴロド動物園であり、ロシア最大の資源会社であるロスネフチ社が協賛したそうです。会議ではロシアの動物園における飼育下のホッキョクグマたち、及び野生のホッキョクグマたちの保護プログラムの導入が議題になったそうです。まずは2016~7年におけるロシアの動物園のホッキョクグマ飼育の総括、及び2018年度における行動計画が討議されたようです。その討議で取り上げられたのはロシアの動物園における新しいホッキョクグマの飼育展示場の建設、給餌のあり方、獣医医療、エンリッチメント、野生孤児個体の保護といった事項だったそうです。
a0151913_3331435.jpg
Photo(C)Зоопарк «Лимпопо»

今年の夏にはニジェゴロド (リンポポ)動物園で新しいホッキョクグマの飼育展示場がオープンすることになっている件は先日も投稿しています。会議終了後に参加者はニジェゴロド動物園の園内を回ったそうで、この動物園に高い評価を与えたそうです。現在はまだホッキョクグマを飼育していないニジェゴロド動物園がこのホッキョクグマに関する会議の開催場所になったことから考えれば、同園には間違いなく夏までにホッキョクグマの少なくとも一頭が来園すると考えてよいでしょう。実は先日の「ロシア・ノヴォシビルスク動物園のロスチクがニジニ・ノヴゴロドのニジェゴロド動物園への移動が濃厚となる」という投稿を読んでいただいたかどうかはわかりませんが、ノヴォシビルスクにお住まいの方がニジェゴロド動物園のSNSのサイトで、同園に来園するホッキョクグマはどの動物園からやって来るのかといった質問をニジェゴロド動物園に対して行っているのですが、同園は「まだそれは公式発表までは明らかにできません」という回答を行っています。私はノヴォシビルスク動物園のロスチクの可能性が極めて高いと考えています。ロスチク以外の個体だとすれば、それは複数の動物園が関係した複数の玉突きの個体移動が行われなければならず、そういったことをうかがわせる兆候は現時点では他のロシアの複数の動物園の周囲に全く報じられていないからです。ロスチクならばノヴォシビルスクからニジニ・ノヴゴロドに単に移動するだけですから他の動物園における個体移動の彫刻がなくて当然なのです。
a0151913_3381755.jpg
ウランゲリ (Белый медведь Врангель/Eisbär Wrangel)
(2014年9月20日撮影 於 モスクワ動物園)(*旭川のイワンの父)

話を元に戻しますと、ロシアではホッキョクグマの保護といった場合に野生と飼育下の両方を抱き会わせて考える傾向が強いようです。以前からもそうなのですが、ロシアではとりわけここ数年は野生孤児個体を保護することに大きな力点が置かれています。そしてそういった孤児個体の保護・飼育を行うのが動物園であると位置付けているため、野生個体と飼育下の個体を一括したものとして捉えています。カナダやアメリカのように野生と飼育下のホッキョクグマを区別する傾向はロシアにはないようです。とりわけカナダでは、野生のホッキョクグマが「善」であって動物園のホッキョクグマは「悪」であるといった風潮が見え隠れしています。「自分は野生動物の保全を研究しているので動物園というものの存在には否定的である、」という考え方をする研究者にはロシアにおけるホッキョクグマの保護政策には馴染めないどころか否定するでしょう。しかし、ホッキョクグマに対してカナダやアメリカの考え方とは異なる考え方を持つ国や民族もいるということを忘れてはなりません。

(資料)
РЕГЛАМЕНТ РАБОТЫ НА СОВЕЩАНИИ о реализации Программы опеки белых медведей в зоопарках России и сохранении белого медведя в дикой природе

(過去関連投稿)
ロシア人研究者の見たホッキョクグマの驚くべき実像 ~ 相互扶助精神に溢れ共同体を形成する彼らの姿
モスクワ動物園が、今後ロシア国内で誕生の個体はロシア国内と欧州だけで飼育の意向を表明
ロシア動物園水族館連合(СоЗАР)がモスクワを中心としたホッキョクグマの国内外の個体移動を映像で紹介
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のロスチクがニジニ・ノヴゴロドのニジェゴロド動物園への移動が濃厚となる
by polarbearmaniac | 2018-04-12 03:00 | Polarbearology

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
エッセイ、コラム
街角にて
未分類

最新の記事

タリン動物園訪問二日目 ~ ..
at 2018-05-22 05:00
アロン (Jääkarupo..
at 2018-05-21 05:30
タリン動物園へ ~ 伸び伸び..
at 2018-05-21 05:00
タリン旧市街を歩く ~ 気ま..
at 2018-05-20 05:00
ラトヴィアのリガからエストニ..
at 2018-05-20 03:00
リガ動物園訪問二日目 ~ ロ..
at 2018-05-19 05:00
リガ旧市街を歩く (2) ~..
at 2018-05-18 05:30
リガ旧市街を歩く (1) ~..
at 2018-05-18 04:00
ロメオ (Leduslāci..
at 2018-05-17 05:30
リガ動物園へ ~ ロメオさん..
at 2018-05-17 05:00

以前の記事

2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ライフログ


人生と運命 1


スターリン―青春と革命の時代


モスクワは本のゆりかご


私のモスクワ、心の記憶


自壊する帝国 (新潮文庫)


甦るロシア帝国 (文春文庫)


嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


ロシア 春のソナタ、秋のワルツ-1999-21st


それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影


ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)


わがユダヤ・ドイツ・ポーランド―マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝


ベルリン戦争 (朝日選書)


Hof――ベルリンの記憶


カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺


北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)


慟哭の通州――昭和十二年夏の虐殺事件


主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録 (1965年)


藤田嗣治 異邦人の生涯


Barle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life As a Circus Act


Lenin's Tomb: The Last Days of the Soviet Empire


Resurrection: The Struggle for a New Russia


Hotel Adlon: Das Berliner Hotel, in dem die grosse Welt zu Gast war


Ein seltsamer Mann


Alma Rose: Vienna to Auschwitz


St Petersburg: A Cultural History


Gulag