街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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2019年 08月 13日 ( 1 )

ロシア・クラスノヤルスク動物園で保護されている野生孤児個体、体重が増加の軌道へ ~ 園長さんの語る近況

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Photo(C)Екатерина Степанова

ロシア極北の街であるノリリスク郊外をさまよい歩いていた推定一歳半とみられるの雌(メス)のホッキョクグマが捕獲されて6月21日にシベリア中部のクラスノヤルスク動物園に移送され保護されている件については何度か投稿してきました。私は7月下旬にクラスノヤルスク動物園を訪問したのですがこの孤児個体に会うことはできませんでした。「合わせてくれませんか?」と同園の方にお願いしたのですが断られてしまったからです。しかしそう失望したわけではありません。何故ならクラスノヤルスク動物園では新しいホッキョクグマ飼育展示場の建設工事が行われており今年の11月に完成する予定となっており、その新しい飼育展示場で会うことのほうが楽しみが大きいだろうと考えているからです。さて、この雌(メス)の孤児個体ですが保護された時の健康状態が良好ではないためにクラスノヤルスク動物園で獣医さんをリーダーとしたチームによって要監視状態に置かれてきたわけですが、ようやく体重が順調に増加していくプロセスに入ったそうで、幸運なことに大きな山は越えたということが園長さんのコメントと共に報じられています。その内容が地元メディアの "Заполярная правда" 紙の記事に掲載されていますので内容を簡単に要約してご紹介しておきましょう。
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クラスノヤルスク動物園で保護された直後の孤児個体
Photo(C) Екатерина Михайлова

まずこの孤児個体ですが6月下旬にクラスノヤルスク動物園に到着した時は体重は107kgsだったそうですがノリリスクの街の均衡をうろついていた時にゴミなどを食べていたそうで、そういったものが体外に排出されたあとに体重を測定するとなんと100kgsだったそうです。骨と皮のような状態でこの孤児個体は最初の一週間は検疫施設の端の方で横たわっていただけの状態だったそうです。当初報道されていた内容よりもかなりひどい状態だったようです。さて、こういった状態だったため内臓の異常が疑われるわけですが超音波診断やX線検査を行うためには麻酔をかけなくてはならず、この孤児個体がもっと成長して麻酔のリスクに耐えられるようになってから行いたい意向だそうです。現時点では彼女の様子を監視していくこと以外にはできることはないとも園長さんは語っています。とにかくまず体重を増やさねばならないわけですが、魚油や酵素などをいろいろな組み合わせの食べ物と共に与えビタミン剤も投与するなどの工夫を試行錯誤しながら行ったそうで、その効果もあって孤児個体は体重が僅かずつではあるものの増加の軌道に乗ったとのことです。2018年10月に同園で保護した雌(メス)の孤児個体のウルスラの場合には保護した段階では体重は120kgsだったものの二か月間の検疫期間の後では体重は160kgsになっていたそうです。ですから今回保護された個体が同じように体重が増加することが期待されているようです。
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Photo(C)Красноярский зоопарк "Роев ручей"

以前の投稿でも述べましたが、そのウルスラと今回の孤児個体は双子姉妹ではないかという強い推測を園長さんは持っているそうです。その根拠として、ウルスラが発見された時との状況の類似性を園長さんは指摘しています。母親は密猟者によって殺されてしまい、その密猟者は母親の連れていた赤ちゃんのうち一頭だけを自分で保持してある場所に隠して飼育していたのだろうと園長さんは語ります。二頭いた赤ちゃんのうち一頭だけを隠して飼育した理由は、もう一頭いた赤ちゃんの存在に気が付かなかったか、それともあえて一頭だけを保持して他の一頭は放置したかのどちらかだろうと園長さんは語ります。その密猟者がこっそりと隠して飼育したのが今回保護された孤児個体であり、その密猟者がその存在に気が付かなかったか放置した個体がウルスラだろうというわけです。今回保護された個体は足の裏が擦り切れてはおらず長い距離を歩いてノリリスクの近郊にたどり着いたのではないことは明白だとも園長さんは語ります。そして今回保護された個体がすでに人間によって室内で飼育されていた明らかな形跡があることが、この保護個体の行動の様子によってよくわかるという興味深い内容を述べています。ともあれ、ウルスラと今回保護した個体が本当に双子姉妹であるかを証明するために将来的に遺伝子分析を行う予定だそうです。さらに園長さんは今回保護した個体とウルスラは歯の発達の状態から共に二歳半であるという見解を述べています。

さらに園長さんは、ウルスラと今回保護した孤児個体のうち一頭はクラスノヤルスク動物園から他園に移動することは確実であるが、どちらが移動するかは言える段階ではないと述べ、少なくとも秋まではどちらもクラスノヤルスク動物園に留まるだろうとも語っています。この件についてはすでにハバロフスク動物園がクラスノヤルスク動物園と交渉してウルスラがハバロフスクに移動する予定であることをハバロフスク動物園が明らかにしているわけですが、クラスノヤルスク動物園の園長さんはそのことをここでは語っていません、しかし話のニュアンスからやはりウルスラが移動するようなことを匂わせる口ぶりです。

さらに園長さんはちょっと気になることを述べています。それは、同園で飼育されている9歳の野生孤児出身の雌(メス)であるオーロラは検査の結果、出産に問題があるようだと述べています。これはかなり気になる内容ですが園長さんはこの点については詳しくは述べていません。また、多くの外国の動物園が野生出身の個体ばかりが飼育されているクラスノヤルスク動物園にアプローチしてきているそうですが、クラスノヤルスク動物園は当然そういった野生出身の個体をロシア国外に売却などで移動させることはありえず、ロシア国外に出る可能性のあるとすればその個体はそういった野生出身の個体が繁殖に成功して生まれた個体に限られると語っています。これは以前から本ブログですでにロシアの動物園のホッキョクグマの繁殖計画に関して述べてきた内容を裏付ける内容です。クラスノヤルスク動物園の園長さんはロシアの動物園におけるホッキョクグマ繁殖計画を策定する委員会のメンバーになったそうで、ロシアの動物園におけるホッキョクグマの繁殖を極めて重要な責務と考えているそうですのでクラスノヤルスク動物園で誕生することが期待されている「新血統」の個体についてはロシア国内の動物園に再配置して血統の遺伝的多様性の維持に貢献させていく意思を持っているという内容のことも語っています。その他、ホッキョクグマの繁殖についていろいろなことを園長さんは語っていますが長くなりすぎますので今回は省略します。

"Заполярная правда" 紙の女性記者の方はなかなかポイントを押さえた素晴らしい質問を園長さんにぶっつけています。飼育下のホッキョクグマについて取材することについてはセンスのある方だと思いました。それから、ノヴォシビルスクにお住いのホッキョクグマのファンの方々は「行方不明」のロスチクについてモスクワ動物園に質問するよりもクラスノヤルスク動物園の園長さんに聞いてみるほうがよいかもしれません。何か事情を知っている可能性があるかもしれないからです。

さて、園長さんが語るには今回保護した個体は2~3週間後には現在の同園内の検疫施設から他のホッキョクグマたちのいる飼育展示場のエリアに移動させて「適応化 (socialization)」を開始する予定だそうです。そうなりますと、私が秋に予定している第三期のノヴォシビルスク動物園の連続訪問の際にまたノヴォシビルスクからクラスノヤルスクまで日帰り旅行を行って今度こそ今回保護された孤児個体に会うという計画を真剣に考えたいと思います。ただし....今年はロシアの冬の到来は多分かなり早いような気がします。10月にツアーでノヴォシビルスク動物園に行かれる方は雪対策が必要になるかもしれません。クラスノヤルスクはのヴォシビルスクよりかなり寒いですので...これは覚悟が必要でしょう。

(資料)
Заполярная правда (Aug.5 2019 - Белая медведица из Норильска, живущая сейчас в заповеднике «Роев ручей», похоже, пошла на поправку.) (Aug.13 2019 - Там, где живут медведи)
НГС24 (Aug.3 2019 - «Много ест и буянит»: медведица из Норильска пошла на поправку в зоопарке)
Таймырский телеграф (Aug.5 2019 - Белая медведица из Норильска идет на поправку и даже хулиганит) (Aug.13 2019 - Белой медведице из Норильска стали давать витамины)

(過去関連投稿)
ロシア・シベリア北部の都市ノリリスク郊外に内陸を500キロさまよい歩いたホッキョクグマが姿を現す
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ロシア・シベリア北部 ノリリスク郊外に現れたホッキョクグマが捕獲、クラスノヤルスク動物園へ移送が決定
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(*ウルスラ関連)
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ロシア極東・沿海州 ハバロフスク動物園のハバルのパートナーはクラスノヤルスク動物園のウルスラに内定
(*2019年7月 クラスノヤルスク動物園訪問記)
・ノヴォシビルスクからクラスノヤルスク、そしてクラスノヤルスク動物園へ
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by polarbearmaniac | 2019-08-13 23:55 | Polarbearology

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